株式投資で学ぶ数理的手法#
緒言#
その昔、「お金を増やすイコール郵便局・銀行にお金を預けること」、が言い過ぎではない時代がありました。株式投資を生業にする人などは「相場師」と呼ばれなにか闇深い危険な人生を歩む存在のように思われたものです。 しかし時代は変わりました。今や政府自ら国民に対して投資で財産形成しなさいと声を大に勧め、税制はじめ投資活動のための政策的な後押しをしています。
政府が勧めているからといって投資が安全安心な蓄財手段になったわけでは全くありませんが、金融・経済の管理技術が進歩し、また個人が容易にアクセスできる情報源も格段に増えたことで、うまく投資を財産形成に活用できる人が増えてきたことも事実であるように思えます。
ところで経済や金融の分野で日々発生する事象を理解するために数理的な手法が多いに活用されていることを皆さんもどこかで聞かれたことがあるのではないでしょうか。筆者は遥か昔学生の頃確率過程と呼ばれる数理領域を勉強しました。当時はもっぱら数理の活用シーンとして自然現象を想定していただけなので現在のように経済・金融領域で高度な確率や統計の理論が適用されている実態を見ると新鮮な驚きを感じてしまいます。
金融・経済の専門家が実務で使う高度な数学的手法を、個人の投資活動のレベルで使わなければならないシーンがそうあるとは思えませんが、根っこにある確率や統計の基本的な知識は非常に応用の範囲が広く有用であるといえます。本稿では株式投資を中心的な題材にして確率・統計をはじめとする数理科学の手法を解説していきます。筆者は金融商品取引の専門家でも、特殊なノウハウで成功した投資家でもありませんので、成功する取引手法をおつたえすることはできませんが、だからこそ、投資の入り口にいる読者と同じ目線で解説できるメリットがあると考えています。この解説を通じて、数理的な知識が生活を豊かにする便利な道具となりうることを、少しでも読者にお伝えできれば幸いです。
本稿の第1章では数理的手法が株取引の場面でどのように使われているのか紹介します。そして筆者自身の取引反省事例を題材として、実際のところ数理的な手法は役に立つものなのかどうかコメントします。そして低いリスクで投資利益を得る取引手法は実際に機関投資家によって活用されており、その手法を支える重要な概念である株価の「平均回帰性」という性質を説明します。
第2章では数理的手法のなかでも株式を含む金融商品取引に縁の深い確率・統計に関わる基本的な知識をピックアップして整理しています。確率的に変動する量を扱うための便利な知識、仮説検定という非常に汎用性のある概念をできるだけ筋道だって解説します。
第3章は、金融商品の価格変動を統計的推定の技法を使って予測するための基本理論として、回帰の手法を説明します。回帰は非常に有用である半面、正しく使うための前提事項を踏み外すと予想外の結果を招くと言われています。そのため特に回帰的手法を正しく使うための知識に重点化して説明します。
第4章では、金融商品の価格変動を確率的に変動する時系列として定義し、自己回帰型時系列を株価分析に適用する基本的な流れを説明します。その他のポピュラーなモデル(移動平均や不均一分散に基づくモデル)についても言及します。
第5章は、金融商品取引のためによく使われている分析手法をいくつかピックアップして解説します。分析手法を実際の株価データに対して適用したときの効果や課題をシミュレーションを通じて理解します。
第6章はゴールとして、プロの投資家の間でも実際に利用されている統計的裁定取引の基本を解説します。そして株価データを使って裁定取引のシミュレーションを行うことでこの技術の使われ方のイメージをつかめるようにします。
本稿では読者が後で独自に試行できるようにサンプルソースと解説を充実させました。また、数学に関わる自明ではない用語や技術にはなるべく説明を補足するようにしました。そのため逆にまわりくどいところはありつつも多少親切かなと思っています。
筆者は数理的手法を個人の生活改善や事業の進展に役立てたいと考えています。この本を通じて数理科学のもつ可能性の一旦でも読者に感じていただければ幸いです.
本稿の内容に関するご意見ご要望は以下までお願いします.
e-mail: shwatanabe@opslabo.com
Web: ご意見コーナー
本稿のサンプルコードの実行#
この本では、Pythonを使ったサンプルコードを紹介しています。読者がサンプルコードを実行するためには、以下の環境でPython3が稼働するパソコンが必要です。
- Windows環境:
- Windows 10またはそれ以降のバージョンがインストールされたPCが必要です。
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Python 3がインストールされている必要があります。Pythonの公式ウェブサイト(https://www.python.org/)からPythonをダウンロードしてインストールできます。
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MacOS環境:
- MacOS Catalinaまたはそれ以降のバージョンが稼働するMacが必要です。
- Python 3がデフォルトでインストールされている場合がありますが、インストールされていない場合はPythonの公式ウェブサイトからPythonをダウンロードしてインストールできます。
また、本稿のサンプルコードを実行するためには、Pythonの基本的な操作方法やパッケージのインストール方法についての理解が必要です。Pythonの基本操作については、オンラインのチュートリアルやドキュメントを参照することをお勧めします。
アピールポイント:#
- 数学的アプローチを重視し、株式市場の数理的解析に焦点を当てています。
- 確率・統計学の基本原理から始め、仮説検定の概念や線形回帰の手法を丁寧に解説します。
- ポピュラーな統計解析パッケージを用いた実践的な例題を通じて、読者が理論を実際のデータに適用する方法を学びます。
目次:#
第1章: 株式投資と数理の関わり#
- 数理的手法の入り口
- 少し微妙なテクニカル分析
- 時代を変えた数理
第2章: 確率と統計的推論#
- 母集団と確率変数
- 統計的推論の基本知識
- 統計的に有意であるとは
- 推定の性能を測る指標
第3章: 回帰モデルを正しく使う#
- 回帰分析の作業
- 係数の有意性の確認
- モデルの線形性の確認
- 誤差項の正規性の確認
- 誤差項の等分散性の確認
- 誤差項の自己相関の確認
- 説明変数の独立性の確認
- 回帰係数の推定
第4章: 時系列を分析する#
- 時系列データの整形
- 自己回帰モデルによる分析
- 移動平均モデル
- 分散不均一モデル
- 状態空間モデル
第5章: 株価分析を実践し反省する#
- テクニカル指標
- 非テクニカルな指標
- 実践と反省
第6章: 非効率だから機会もある#
- 株価をシミュレートする
- 平均回帰時間を見積もる
- ペアトレーディング
補足説明#
- ソフトウェア
- 確率・統計
- 分位数
- ベクトル・行列